結論だけ先に書いておく。
貴方が搾取されているのは、全体の工程の見えない場所に置かれている事が原因である。
例え事業者の肩書を持っていたとしても、一工程の作業員である限りは、その境遇からは絶対に抜け出せない。
這い上がりたいのであれば、せめて携わっているビジネスの全工程を知悉するところから始めるべきである。
自分の一存で見積もりを出せて初めて稼ぐことが可能になる
先日、アニメーターの方と少しだけお話しさせて頂いた。
切っ掛けは、彼が行うアニメーターの地位向上運動を私が知ったことである。
「何らかの工程を買い上げることで、運動に貢献出来るかも知れない」
そう感じた底辺は当該アニメーターに、
「数秒で構わないので、アニメーションを買い上げさせて頂くことは可能ですか?」
と打診した。
だが、回答はNOだった。
「アニメは分業が進み過ぎていて、個人が完成品を販売することは極めて困難である」
と云うのが理由であった。
この遣り取りをしている間、底辺は堺の包丁職人の人生を思い浮かべていた。
搾取と云う名の防衛
堺市は高級和包丁の生産シェアの90%を握っている。
御存知の通り、戦国期に刀剣や鉄砲を生産していた商業都市堺は、戦乱が収まるとその技術力を包丁産業に振り替えた。
元々、製鉄ノウハウや資本を持っていた為、すぐに堺の包丁は江戸期を待たずしてブランド化した。
(尤も、戦国期から既に堺の包丁産業は高名で、舶来品よりも精度が高い煙草刻み包丁が堺で生産されている)
「そこまで包丁産業の発達した堺の包丁職人であれば、どこの街へ行っても包丁工房を開けたのではないか?」
と感じた方も多いかも知れない。
だが、包丁職人達の独立は非常に難しかったようだ。
何故なら、堺の包丁業は完全分業制だからである。
大まかに分けても、鍛冶・研ぎ・柄付けと工程が別れており。
末端の職人からは全体が把握しにくい就業構造であったから
丁稚から入門した者が「堺包丁一人で作れます!」と云う域に達するのは極めて困難であったようだ。
これは労働者視点から見れば、「資本家による搾取」なのだが。
資本家視点から見れば、「事業防衛」である。
莫大な資本投下によって築き上げたノウハウ・ブランドを、雇用相手に盗まれてしまっては事業を営んでいる意味がない。
雇用相手に、「自分の事業を再現させない事」と云う防衛措置を取るのは自然であろう。
儲けているアニメ作家の話
閑話休題。
アニメーターの話をしよう。
彼らは単独でアニメーションが作れない。
たったの数秒すらもである。
(ただ物理的に作れるだけでは意味がない、商品として見積もりを出せる域に達して初めて『作れる』と言える。)
業界全体の変革を提唱している方ですら、客の買い付け要望に回答すら用意していなかった。
(起業を成功させたいのであれば、ざっくりとした見積もりをいつでも出せる態勢にあるべきである)
顧客とダイレクトに繋がれない、と云うことは「価格決定権を持てない」事を意味する。
儲かる筈がない。
だが、かつて底辺が仕事を依頼したアニメーターは一人で稼ぎ。
不本意な発注には返金して拒絶出来る位の余裕は持っていた。
(返金された本人が言うのだから確実な情報である)
業界の中では若手だが、自分よりも遥かにキャリアの長い先輩達を外注先として使っていた。
彼は特別に技術があるクリエイターではなかった。
正直、彼からは上手さもセンスも感じなかった。
ただ彼は、自分で出来る範囲の技術を自分で営業して売っていた。
ただそれだけである。
ただそれだけの事が出来ないから、多くの者は苦境にある。
貴方が不当な搾取をされない為に
貴方は今、誰かに雇用されているだろうか?
貴方は今、誰かの下請け業者の立場にあるだろうか?
それで尚、貴方が不当に搾取されていないのであれば、底辺は静かに安堵する。
だが、得てして幸運者は少数派である。
不幸な多数派が搾取されない方法は、堺包丁の産業構造を知る事である。
貴方の貧しさは、一工程の作業員としての立場に起因するからである。
まずは俯瞰で自分の立ち位置を観察して欲しい。
後、何工程か足せば再現出来はしないだろうか?
切り売り可能な隣接工程はないだろうか?
その隣接工程は、一冊マニュアル本を読めば体得可能なのではないか?
そもそも今の雇用主自体が、この様にして現在の地位を築いたのではないか?
脱出のヒントは、構造の把握から始まる。
まずは、独力で一振りを販売する為に必要なパーツを調べ上げて欲しい。
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今回の記事もありがとうございました。
フォードの工業マネジメントが始まる何百年も前に、マニュファクチャでも行われていたかと思うと、なんだかなぁ、と感じます。
今はまさしく一工程の作業員として働いているので、構造把握に努めたいと思います。
2017年10月11日 7:26 PM | やす |
資本家の搾取の方法、興味深く読ませていただきました。
同人業界がなぜ儲かるのかも分かって大変面白かったです。
2017年10月11日 7:52 PM | Name * |
やす様へ
意外にこういう視点で御自身の業務を分析した事が無い方が多かったので、今回のエントリーを執筆しました。
単に調べるだけでも打開策が見つかるケースは多いです。
やす様の御開運を祈っております。
7:52様へ
そうなんですよね。
「商業で搾取されている有能クリエイターが同人に来たら、あっさり稼げてしまう」
という話も聞きますので。
如何に自分のビジネスを保有することが重要か、ですよね。
2017年10月11日 8:25 PM | teihen |
私の勤務先も分業のひとつで、少し前までは良かったのですが、メインの取引先が買収されてからは搾取のような仕事しかもらえません。
まあこれが可愛がられ補正を外した本来の能力なんでしょうが。
他の事に転用がきかない下請け事業って、けっこうリスク高いですね。
2017年10月12日 7:10 AM | しげる |
しげる様へ
お察しします。
経営者が変わると、別構造になりますよね。
もしも脱出をお望みであれば、現在の環境で知り得る業界知識は全て勉強しておいて下さい。
部品であることは決してデメリットではありませんが
その部品としての使い道しかないことは危険ですので。
2017年10月12日 1:52 PM | teihen |
今回も面白く読ませていただきました。
要はパッケージを作ることができる人が
独立できるということでしょうか。
自動車メーカーも部品をゼロから作っておらず、
部品を調達してきて組み立てて作っています。
さらに部品を調達する人や人間をマネジメントする人も雇っています。
なので必要な人材を雇ったり外注できて
パッケージとして完成品を販売できればそれでOKなのかなと。
もちろん相場やどういうものが求められるかマーケティングの
能力は必要だと思いますが。
稼いでいるアニメーターの人はアニメーターというよりも
外注などで絵や音声など素材を確保して
それをまとめて納品しているディレクターのような人なんでしょうか?
だとしたら、急務なのは個別の専門技術を身につけるよりも
全体像の理解と各工程の技術者に話をつけたり
素材を入手する方法を知ることなのかもしれませんね。
2017年10月12日 11:31 PM | smoto |
アドバイスありがとうございます。
気楽にかまえて、ブラック化したらすぐに逃げるつもりですが、持ち出せるものはひとつでも多い方が良いですね。
この機会に、別でしている1人仕事をカスタムしたいのですが、現在底辺さんがしているコンサルはスポットのSkype相談なのですか?
また今現在パソコンがネット接続できないため、スマートホンでの相談も可能でしょうか?
2017年10月13日 3:12 AM | しげる |
smoto様へ
パッケージについてのお考えですが、私もそう思います。
逆にパッケージを完成する能力のない方が価格決定権を持とうとすると、オーナーになる以外道がないので。
外注に関してですが、発注する為には全工程をある程度分かっていないとコストが跳ね上がります。
危険なのは、自分の商品・サービスの中にブラックボックスが出来てしまうことなので。
そのアニメーターの方は、元は生粋のクリエイターです。
ただ、業界に入って早々に産業構造に見切りを付け、自分の持っている技術の範囲で売れる商品を模索して現在の形に至ったようです。
大切なことは、今の自分の手持ちでどんな商品・サービスを完成し得るか、ではないでしょうか。
しげる様へ
法律に抵触しない範囲で持ち出せるものは多いです。
(普遍的な業界知識など)
会社に転がっている業界新聞一部とっても、その業界で起業したい人にとっては宝ですし。
Skypeですが、スマホにインストールして私と通話して下さっている方も多いです。
そのうち、PC経由ユーザー自体が少数派になるかも知れませんね。
2017年10月13日 7:58 AM | teihen |