「キャリア」と云う表現は漠然とし過ぎているので、このタイトルを付けるのに少し悩んだ。
(言葉の定義が広すぎる)
このエントリーでは「実務上の経歴」と云うニュアンスでの「キャリア」の話をする。
このエントリーは、「効果的にコンテンツを積み重ねる方法を知りたい」と云うリクエストに基づき執筆した。
コンテンツと言えばあまりにも範囲が限定されるので、より広範な「キャリア」の話をする。
「何も持たない人間がキャリアを積む方法」は「一からコンテンツを洗練させる方法」と相通ずるので。
大久保利通は如何にして権力を手中に収めたのか?
幕末から自身が暗殺されるまで、この男の構想通りに日本の歴史は動き続けた。
維新の恥部・暗部も含めてほぼ全てである。
ここまで細部まで構想を実現した政治家はそうそう存在しないのではないだろうか?
幕末に薩摩藩で勃発した御家騒動の「お由良騒動(もしくは高崎崩れ)」の負け組(斉彬派)に所属していた大久保利通は父と共に失職し、大久保家は貧窮のどん底に陥る。
大久保は政敵ではあったが藩父となった島津久光に接近する為に久光の囲碁仲間に接近し、久光の嗜好や趣味を探った上に自分を売り込む事に成功する。
この時期の振る舞いが大久保の悪評の原因の一つとなったが、下級武士身分である上に失職によるキャリア断絶を経験している大久保にとって、政治の中枢に入り込む為の他の選択肢があったとは思えない。
少なくとも「囲碁を利用して主君に取り入る」と云う講談の悪役の様な手口が最短ルートであった事は確かだろう。
いずれにせよ、囲碁作戦からわずか5年で藩政への参画権を持つ御小納戸役に抜擢され、主君から「一蔵」の名を拝領する事にも成功する。
大久保利通が薩摩を代表する公人として他藩の要人と折衝する資格を得たのは、この経緯による。
「私と父は政治犯であり無役禁固中です」
と云う経歴は当然だがキャリアとは呼べない。
権力者への接近に成功し、公人としての地位を得て初めて大久保はスタートラインに立てたのである。
無論、大久保は幼少時から学問に秀で仲間内でもその優れた政治眼は高く評価されていた。
これは単なる『能力』である。
能力とはそれが必要な場面になって初めて発揮される要素であって、必要とされる社会的資格を持たない限りは披露すらさせて貰えない。
多くの庸人が『能力』と『社会的資格』を混同している中、大久保は冷徹に目的の為に必要な行動を発見し実行した。
その後の彼が成し遂げた数々の偉業についてはその激しい賛否と共に語り継がれているので、これ以上は記さない。
モーツァルトが父から受け継いだ才能以上の財産
これは政治に限った話ではないが、発揮したい能力や行動目的に対して、それぞれに『社会的資格』が要求されるのは当然である。
キャリアアップに必要な物は、結局は人事権を持った人間に引き上げて貰う事である。
それがビジネスであろうと宗教であろうと芸術であろうと、社会が人間によって構築されている限りは同様である。
コンテンツの向上方法についても原理は似た様な物で、決裁権を持つ人間の目に触れないコンテンツを無限に作ってもそれが正当に評価されるのは困難であろう。
モーツァルトの父が何故自慢の息子をヨーロッパ中の宮殿に行脚させ各国御前で披露させたかと言えば、クラッシック音楽のパトロンが欧州の王侯貴族であったからである。
孤山で演奏能力を磨いても、それだけでは能力を正当に発揮する事は出来ないのである。
「~王の御前で演奏」
「~卿の晩餐会で演奏」
と云うキャリアを幼少から父に与えられ、人事権・決裁権を持つ層に認知されていたからこそ、モーツァルトはその才能を十二分に発揮出来たのである。
何故・平賀源内は如何にしてその天才を知られたのか?
平賀源内が11歳の時の話である。
徳利を奉納すれば人物が酩酊し赤面する、と云う掛け軸を発明した。
この絡繰掛軸は「御神酒天神掛軸」と呼ばれ、今でも香川県の平賀源内記念館に展示されている。
足軽身分の源内はこの珍発明により藩内で認知され、本草学の学習機会を得る。
これが良くも悪くも成功体験として、源内の処世手法となる。
高松藩を奉公構になった後も、数々の日本初イベントを開催し老中・田沼意次や秋田藩主・佐竹義敦の知遇を得る事に成功する。
(源内は自身を失敗者と捉えていた節があるが、田沼意次に取り入る為に必死で運動したにも関わらず相手にされなかった人間だって無数に存在したのである)
派手なパフォーマンスで知名度を上げておけば、上の人間も引っ張り上げやすくなるのである。
ステップアップするには、まず人目を惹きつける事である。
結びに替えて
早い話が、
「実績を積みたいのならば権力者に取り入れ」
と云う趣旨である。
身も蓋もない話かも知れないが、この手法が如何に現実的かは貴方自身がよく御存知である筈だ。
権力と言っても、必ずしも政治的な意味で無くても構わない。
経済であれ文化であれ犯罪であれ、社会にはそれぞれに権力を持った人間が存在し、
その人間に認知される事が上昇の最短ルートなのである。
若き日の太閤秀吉が今川家の松下之綱に仕えた事は有名である。
之綱の家臣と折り合いが悪くなり出奔した、と伝承にはあるが、
折り合いが良かろうが悪かろうが之綱に仕えている限り秀吉に躍進はなかったであろう。
何故なら、松下家は今川家に臣従する飯尾家の臣下であったからである。
織田家は当時の基準から考えても明らかなブラック企業だったが、ワンマン社長の信長に近侍すると云うチャンスに秀吉は恵まれる。
そのチャンスを秀吉が如何にして活かしたかは人口に膾炙されている通りである。
織田か今川かは、卑賎たる秀吉にとっては極めて些細な問題であった。
問題はより大きな決裁権・人事権を持った相手に近づけるか否かである。
ビジネスやコンテンツ作りも同じ事である。
より巨大な存在に自分を認知させる事が出来るか否かである。
この行為を「取り入る」と解釈して行わないのも善し、「売り込む」と解釈して行うのも善しである。
取り入り方が判らなければ、底辺が個別に相談に乗る。
放浪生活が長かった分、不本意ながら一日の長はある。
9件のコメント
ワンフー
2014年4月30日 at 8:31 AM私、底辺様の大ファンでありまして、底辺様の記事は他ブログより遥かにレベルの高い有用な内容だと、いつも感心しております。
最近、ブログランキングに参加されたようで、微力ながら私もランキングアップに協力させて頂いたのですが、正直底辺様の順位が低すぎて驚いてしまいました。
底辺様のブログ内容ならトップじゃないとあり得ないと思ったからです。
恥ずかしながら日々のたわいもない戯言を書いてる拙ブログですら常に3位以上のランクになっているのに何故かと考えました。
そこで気づきました。
拙ブログは底辺様がいつも仰っておられるニッチな分野でトップを目指せの言いつけに従い、参加者が50人にも満たない不人気カテゴリに登録しております。
対して、底辺様のカテゴリは500人以上も参加者がいる非常に競争の激しいカテゴリだと思われます。
競合の少ない分野でトップを目指す主義の底辺様におかれましては、もっと参加者のいない不人気カテゴリにて登録される事の方がよろしいのでは、無いでしょうか?
teihen
2014年4月30日 at 10:25 AMワンフー様
お褒めに預かり光栄です。
ブログランキングに関して内訳を公開しておきますと、
起業・独立カテゴリーとライフハックカテゴリーに50%ずつ投票を割り振っております。
今(2014/04/30)チェックした所、起業が152位/504人中であり、ライフハックが8位/110人中でした。
他の方の注力度合は判り兼ねるのですが、客観的評価としては出来過ぎている位だと思います。
内容について評価して下さる方もおられるのですが、
弊ブログはコンテンツとしては致命的な欠点がありまして、
「タイトルを見ただけでは趣旨が理解出来ない」
と云うのは、ライフハックコンテンツとしてあまりにも致命的であると思います。
(このタイトルを変える気は今の所ないのですが)
今回ランキングに参加したのは、閉じた世界で浅薄な持論を吹聴している自分自身を客観視する目的からです。
故に、上位を獲る為のボタン配置やお願い文や参加カテゴリー選びは行わない事にしています。
アクセス解析の延長上であると考えて下さい。
お気遣いありがとうございました。
ワンフー様のブログの一層の御発展を祈っております。
匿名
2014年4月30日 at 6:15 PM今回も有意義なエントリーでした!
底辺さんもご存知かもしれませんけど、
モーツァルトは、二十歳くらいになった際に
「周囲との人間関係に苦しんだ」らしいですが。
と、いうのも、あまりにもいままで「子供として大人に可愛がられる」コミュニケーションの仕方に慣れていたため、
自分が大人として周囲に接することをしてこなかったから。
「彼にもっとコミュニケーション力があれば、才能を買ってもらえるのに」と周囲の人も言っていたとか。
でも、既にパトロン層に認知されていれば、それでなんとかなるのか(笑)
二十歳ならまだ、いままで可愛がってくれた親世代はしばらく健在ですものね。(現代より平均寿命が短いとはいえ)
親世代が健在な間にキャリアを積み上げてしまえば、後々も
「あの人は天才だから変人なんだ」ですまされてしまう?
たしか、35歳で亡くなった彼ですが、(今の私と同じ歳だ!)
その歳だからギリギリ「子供」としてふるまっても、まだ親世代が容認してくれたのかなあ。。。
1000$
2014年4月30日 at 6:29 PM拾っていただき有難うございます。
今回のエントリーの好例では小説版「リアル鬼ごっこ」ですね。
小説はアレでしたが、売込みとしてはピカイチでした。
だから自費出版でしたが。
匿名
2014年5月1日 at 2:32 AM進撃の巨人の作者の諫山氏は、漫画の持ち込みをしていて、
19歳の時に、大学出たての23歳の新人編集者に漫画を見てもらえて、
その3、4年後にその編集者が担当となって、
進撃の巨人の連載が始まったそうで。
相手が駆け出しの若い編集者でも、
「漫画を採用する決定権を持つ人」に認知されたから、良かったんですね。
歴史知らずの本読み
2014年5月1日 at 4:24 PM底辺さんは歴史に造詣が深いですね。
歴史を勉強するにあたって最初に手に取るべき本ってありますか。
teihen
2014年5月1日 at 9:18 PM6:15様へ
申し訳ありません。
文章が判り難かったのですが、あの箇所の本旨はモーツァルトの父を褒めていました。
本人に関しては映画・アマデウス以上の印象を持っておりません。
あれだけ子供染みたキャラクターなら50位までは子供ポジションで押せそうではありますね。
1000$様へ
稚拙な回答で恐縮しております。
私も非才の人間なので、売り込みありきの販売戦略になりそうです。
2:32様へ
ちなみに、出版をしたい時はひたすら編集長以上を相手に営業しなくては駄目です。
編集長の企画は下らなくとも周囲が反対しにくいですが、新人の企画は面白くても普通につぶされるので。
歴史知らずの本読み様へ
私は幼少時に小学館から出ている「漫画・日本の歴史」を両親に与えられて基礎知識を身に付けました。
全てのベースになっていると思います。
故に最初に読む本には、
「漫画かイラストで通史を描いた作品」
を推奨します。
匿名
2014年5月2日 at 9:28 PM底辺さん
説明が足りなくてすみません。
モーツァルトの父親は、息子にキャリアを与えた立派な父親だけど、
息子の将来を考えてやったら、コミュ力の向上にはあまり感心がなかったのかな?
でも、キャリアさえ積んじゃえばあとはなんとかなるなら、
結局息子にとって一番大事なことを抑えていたから正解なのかな?
という考察だったんです。わかりにくくてごめんなさい。
teihen
2014年5月3日 at 12:47 PM9:28様へ
全方面をカバー出来る人間は殆どおりませんので、自分が与えられる範囲のものを与えれてやれば正解だったのではないでしょうか?
そもそも、モーツァルトの父に本当の意味でのコミュ力やコミュ力の重要性への理解があったかどうかも疑問ですしね。
彼は息子に必要と思った物を与える事に必死だったのでしょう。
書き込み感謝します。
より、深く考える機会を与えて頂きました。