世界の借屋大将藤市に学ぶブルーオーシャンの見つけ方



独占市場で商売をしていれば収益は自然に出せる。

過当競争市場で商売を頑張っても収益を出すのは難しい。

どんな市場にもパイの上限はあり、分け合う面子が増えれば増えるほど一人当たりの分け前は減る。

「だからこそ、誰も居ない市場で商売をしましょう。」

と云うのが、かの有名なブルーオーシャン戦略である。

 

今回のエントリーは、「そのブルーオーシャンをどうやって見つけるのか?」と云う趣旨である。

 

 

 

 

 

先にオチから語る。

 

気の短い人の為に結論から言えば、「青い鳥」と同じオチである。

「誰しもブルーオーシャンに足首まで浸かって暮らしているのだから、遥か遠くに探しに行くよりも自分の足元に広がる海の青さに気付こう。」

と云う少し陳腐なオチである。

稀少性とは探す物ではなく、見出す物なのである。

 

 

 

 

世界の借屋大将藤市

 

井原西鶴の最高傑作「日本永代蔵」の登場人物を紹介する。

タイトルでも表記された藤市(京都在住)である。

江戸期の町人身分なので苗字は書き記されていない。

永代蔵の多くの登場人物がそうである様に、幾人かのモデルを複合させた偶像かも知れない。

だが、教材として秀逸な人物であるので、脳裏に刻んでいて欲しい。

 

 

 

 

藤市は借家人の身でありながら一代で財を築いた。

金持ちになった癖に賃貸生活を続けて、「世界広しと言えど、俺より裕福な賃貸人はおるまい!」と豪語していた所から察するに、一種の奇矯人であったのだろう。

(後に藤市は不幸にも抵当に取っておいた屋敷を入手してしまい、借家人を名乗る資格を喪失する。)

 

この藤市が徒手空拳から成り上がった経緯が実に面白い。

藤市は片時もメモ帳を手放さず、出会う人間全てに経済情勢を尋ね続け、記録を重ねていったのである。

即ち、両替屋の手代とすれ違えば銭や小判の両替相場を尋ね、米問屋の手代には米相場を尋ね、呉服屋の手代には長崎情報を尋ね、と云った具合にである。

万事がこの心掛けであるから、藤市は一介の賃貸人ながら京の都の誰よりも経済情報に精通する様になった。

自然、京の人間は経済情報について藤市を頼るようになり、その力関係がこの男の躍進を大いに助けた。

 

時代は、「銀が無ければ銀を稼げない世になった。」と西鶴が嘆いた元禄時代。

しかも場所は競争激しく新参者に厳しい京都であった。

それでも、この男の手法に掛かれば、そこはブルーオーシャンであったのだ。

【誰も着手しない手法】を極めれば、どんな場所でも無人の漁場と化すのである。

いや、レッドオーシャンと呼ばれ、人口密度が高い場所で自身の商品力を誇示した方が却って楽なのかも知れない。

 

 

 

マーケットはどこにでもある

 

 

これがブルーオーシャンの真理である。

突飛な事や珍奇な場所を無理に探す必要はない。

寧ろ、自分の特性を極限まで磨いて、市場を「自分にとってのブルーオーシャン」に変える事の方が遥かに賢い。

マーケットは何時でも貴方の傍にあるのだから。

 

見渡す限りレッドオーシャンしか存在しないのであれば、それは飽和した市場のど真ん中に貴方が放り込まれている所為では無い。

貴方がコモディティな人材であるが故に、市場が貴方にとってレッドオーシャンになってしまっているのである。

(底辺のコモディティ論に関しては、こちらのリンクを参照)

そんな状態のままであれば、どこへ行ってもその海は凄惨な赤色のままだろう。

 

逆に藤市の様に、普遍性の高いスキル・習慣を身に付けて武器にすれば、どこに行ってもプチ独占市場を作れる。

(京は本来、日本最古のレッドオーシャンである。)

藤市の心掛けがあれば、江戸や長崎に住んでいたとしても、必ず彼は自分のポジションを確立して成功したであろう。

 

 

繰り返すが、「ブルーオーシャン」と云う言葉に縛られて、無理な遠出をしたり奇行を試みるのはあまり賢明な手法ではない。

寧ろ、自分がある程度知悉している分野の中で、自分を稀少化・貴重化させる手法を取った方が近道である。

海幸山幸ではないが、漁師が漠然と狩人の世界のブルーオーシャンを見つけるのは難しい。

車輪の再発見に労力を費やしてしまう危険性も高い。

(但し、猟師の世界で何らかの法則・真理に辿り着いており、狩人の世界でその法則が気付かれていないのなら、応用が利くかを試してみても面白いかも知れない)

それならば、自分が事情を知る世界の中で、「自分を市場にとっての稀少な漁師」に変えた方が手間が省ける。

そして、自分の市場を精査した経験は必ず別の市場でも活きる。

逆に言えば、今居る市場で漠然と過ごしている者が別の市場を開拓しようとしても、結局は同じ轍を踏む可能性が高いのである。

 

青い鳥がそこに居る様に、青い海もそこに在る。

 


 


 

 

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7件のコメント

  1. やす

    いつも興味深く拝読しています。
    「今居る市場で漠然と過ごしている者が別の市場を開拓しようとしても、結局は同じ轍を踏む可能性が高い」
    感銘を受けました。
    もし機会があれば、華僑、ユダヤ人、アルメニア人といった、商売上手と言われる国民についての考察を伺いたいです。

  2. teihen

    やす様へ

    御感想ありがとうございます。
    華僑・ユダヤ人・アルメニア人の商売上手は私も評価しているのですが、彼らのやっているのはビジネスではなく広義の民族生存戦争だと捉えております。
    故に、彼らの手法はビジネスではなく、民族戦略として参考にするべきでしょう。

    そして、彼らの生存戦略がヘイトを買い易い種類のものである以上、あまり大ぴらに語り合う事は自粛するべきだと考えております。

    IT化によって個々による情報精査が可能になった現代、上記三民族が20世紀に行ってきたプロパガンダ戦略が裏目に出ております。
    (無論、20世紀の時点では悪手では無かった)
    故にビジネス面も含めて、彼らを参照対象にするべきか否かは慎重に検討すべきではないでしょうか?

  3. N

    私も新しく知り合った人と仕事の話になった時は詳しく聞くようにしています。(メモまではしませんが)
    相手から見て商売敵にならないと判断されれば意外と皆さん色々話して下さいます。
    成功したければ自分が属している業界についてより深く、より広く情報を集めることが大事ですね。
    藤市からは学ぶところが多そうです。

  4. 1000$

    >自分がある程度知悉している分野の中で、自分を稀少化・貴重化させる手法を取った方が近道である。

    これはこれで難しい。
    「努力しているのに~」でも嘆いた返答に
    >自分の売物を淡々とリストアップする作業
    を挙げておられましたが、
    身の丈を知りへこみ・・・
    短い丈の活かし方を知らずへこみ・・・
    何らかの解答に至るまでに精神的摩耗は避けられないでしょう。

    今回のように
    丈を多少は強くする方法を知れたのは幸いでした。

  5. teihen

    N様へ

    素晴らしい御心掛けだと思います。
    知識の有無が成否を分ける場面は本当に多いですものね。
    今後もベンチマークすべき偉人を積極的に紹介して行きたいと考えております。


    1000$様へ

    知らない分野を開拓する労苦に比較すれば、ある程度知っている分野で自身を掘り下げる方が楽だと思います。

    もしも自分の売り物が見つからない場合は、
    業界内で需要のある商材を全てリストアップして、自分と親和性の高い売り方を考えて下さい。

  6. 次郎

    いつも新記事を楽しみにしながら熟読しております。

    底辺さんが仰るバイトであっても個人事業主として扱われる時代と言うのは案外近いのかもしれないと思うようになりました。

    残業代ゼロ法案により勤め人をやる意味を自分に問う人が増えるような気がします。

    残業代ゼロ法案についてはどのように感じておられますか。

  7. teihen

    次郎様へ

    結論から言えば悪法だと感じております。
    何故ならば、現在の勤労現場で法規が守られていないのに、この様な趣旨の法律が出来れば悪用されるだけだからです。

    この法案に限らず、日本の行政の欠陥は執行官僚(例えば国税庁)よりも企画官僚(例えば主税局)の方が上位にあり、理屈ありきで法規が作成されている事です。

    現在の法令を適切に運用する事が出来なければ、如何なる良法を思案した所でそれは悪法として機能する事でしょう。

    私は今回の残業代ゼロ法案について、その様な観点で見ておりました。

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